目覚めたら初恋の人の妻だった。

ホテルアランザでの翌日に共有できるスケジュールの
アプリもダウンロードしたしスマホの
GPS機能もオンにし、柚菜は何処からでも
俺のスケジュールも場所の確認も出来るようにしたのに、
柚菜がGPSを作動させることは無かった
それが信頼だと思っていたのは最初だけ。
今の柚菜の瞳をみていると更新なんてしてくれないと
思わざるを得ない。
喧嘩もしない穏やかな生活。
一層の事 罵って欲しい、喧嘩して柚菜の感情を
ぶつけて欲しいとさえ思ってしまう。
そのくらいに 柚菜から感情が消えてしまった。

このままだったらきっと契約は更新されない・・・
あの時に感じた余裕は焦りに変わっている。
柚菜に拒否されたら立ち直れないから
触れられないで居たら触れるタイミングを
完全に失ってしまい、触れたくて、頬に伸ばす手が
何度も空を彷徨い、以前は出掛けるタイミングで
握っていた手に柚菜はバックを持つようになったのは
拒絶かもしれないと考えれば考えるほど
己の手は彷徨い続けてしまい、2人の空気感が
家に居るのに、まるでオフィスにいるように漂う
空気感出来上がってしまっている。

マズい・・・どうにかしないと・・・
そう思えば思う程に気持ちが空回りする

「一那に会いに行ったら、お姉ちゃんと出掛ける姿を
見せられ記憶が戻って事故にあった日の事を思い出し、
私がどんな気持ちで何日も過ごしたか解る?
私はこの関係を簡単に手放すって口にしたと思う?
何日も何日も悩んで眠れない時間を過ごして
覚悟を決めたんだよ。」

ホテルアランザで柚菜から投げつけられた
言葉の重さが漸く心に響く 本当に俺は愚鈍だな
何日も何日も眠れない時間を過ごした柚菜は
こんな状態だったのだ
いや、俺の方がまだマシなのかもしれない。
柚菜は俺と香菜の関係を疑っていた、
それが無い俺はマシなんだ

隣で静かに寝息を立てる柚菜の顔を暗闇で凝視し
罪の重さを痛いほど突き刺さる、自分の右腕を
目に乗せ目から落ちる生理的な水滴をシーツに
落とさない様にする。
泣く資格も悲しむ資格も辛いと思う感情も
自分は呑み込むべきだ。

隣に寝ている妻のふっくらしていた子供の時の頬を
思い出しながら何時の間に、大福のようだと
ムニュムニュとしていた頬は無くなり、
決して痩せすぎていなかった身体はいつの間にか
誰よりもスレンダーな身体になっていた、
その全ての原因が俺と香菜だっととは
思いもしないで過ごした月日が重く圧し掛かる。

柚菜を失ったら生きていけない、そう口にした
言葉は紛れもない真実。
でも、今の自分は怖くて柚菜に触れる事も出来ない。
このままの状態が続いたら確実に失う未来
でも、今の俺に失うより怖いものがあるか???

何時もだったら柚菜が起きる前に柚菜に回した手を解き、
先に起きるがそのまま柚菜が起きるまで抱きしめたまま
寝たふりをきめ、匂いを温もりを存分に味わう。

「う ふう・・う~~~んん」

柚菜の口から洩れるなんとも言い難い甘い声でもうすぐ
目を覚ますのを感じ、胸の奥がキュッと痛くなる。
拒絶されたら・・・・
余計、抱きしめている腕に力を込め身体をこれでもかと
密着させる。
お願いだ!
受け入れてくれ!
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