目覚めたら初恋の人の妻だった。
それから
理解はしている。
一那は善意で姉に手を差し伸べていただけ(・・)
頭では理解しているから許せると簡単に考えて
いたのかもしれない
だけど現実は残酷で
だけ(・・)を許せなかった。

善意だったら良いの?
謝ったら許される?
後悔していたら許さないといけないの?
許さない私はダメな人間なの?

どうして?どうして?
傷ついた私が罪悪感を抱かないといけないの?

傷ついて泣きそうな一那の瞳を見る度に
私が悪いの?
そう責められている様な気がする。

そんな事を本人に言ったらもっと
傷つけてしまうよね?

辛そうな顔を見たくなくて、責められている様な
感覚に陥りたくなくて
必然的に壁が出来てしまう。

だから私達の距離は開くばかりで1年を待たないで
別々の道を歩んで行くのかもしれないと、
心に溜まっていく(おり)

決定的な何かが起こるのではなく
日々、ジリジリと何かに蝕まれるように少しづつ
確実に影を落とす 
気がつかないフリが出来ないほどに、これと言って
修復できる要素も無く、お互いに気がつかないフリが
更に拡げている現実を怖くて言葉を選ぶ
うちに本音が隠れてしまう負のループに陥っている。

失くす恐怖に備えようとする本能に
過去の産物も起因し、その時が来ても大丈夫なように
と余計に距離を置くようになり、それが悪循環だと
頭では理解していても、次にあの苦しみを受けたら
正気を保てる自信は無いからダメージを
減らしたいと本能が働いてしまっている。

それに付随する様に以前は家で裁判に備えてしていた
仕事も持ち帰る事も無くし、法律関係の書籍も
事務所に置きっぱなしにし、モバイルPC一つだけを
多用し何かあった時にこれだけ持ち出せばクライアントや
同僚に迷惑を掛けないで済むからと安全策を講じている
その時点で私達の関係はかなり歪。

退院してきた状態のトランクがクローゼットに放置
されているのも仕事を持ち帰らなくなったのと
同じ理由なのは自分では解っているが
一那にも自分にも又、事故の後遺症で体調を崩した時に
慌てない為と言い聞かせている卑怯者の私。

何十年も好きだった初恋の人と離れたい訳では無いのに、
自分の行動は別れに先導されている。

一那に触れたいのに、触れたらもっともっと欲しくなる。
欲しくなってお互い求め合ったら・・・
そうなったら離れる事は出来ない。
だから伸ばした手をグッと握り、空を彷徨わせる。

一那がベッドに来る前に一那の寝る場所に
自分の身体を委ね、一那の匂いを取り込む。
安心する匂いに癒されるが、その後に襲う虚無感に
胸がジクジクと痛むのを気がついて欲しい。
でも、気がつかれて同情されるのはイヤ。
こんな面倒くさい私にいずれ愛想が尽きるに決まっている。

恋愛って難しい、結婚ってなんなんだろう・・・
信頼関係が無くても成り立つものなのだろうか?
誰よりも離婚問題に携わってきたのに自分の事となると
人はこんなにも判断に躊躇してしまうのを知ってしまい、
漸くクライアントの気持ちが理解出来たのかもしれない。
改めて自分の傲慢さに気付かされ、クライアントの接し方を
見直す事が出来たのはせめてもの救いだと自分に言い聞かせ、
日々 戦々恐々と過ごし、かと言って自分から踏み出す事の
出来ない幼稚な態度に辟易してしまう。

大人の女性なら一那の心情を理解し、許す為に両手を広げ
受け止めてあげられるのかもしれないが、私は自分さえ
持て余し、その重さを受け止められないでいる。
何時か全てがこの腕から零れ落ちてしまう事に怯えながらも。

「成人式はとうに終わっているのにちっとも大人になれない」
一人ぼっちの部屋で独り言ちでみるが、
虚しくハウリングするだけ。



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