STRAY CAT Ⅱ
教育係交代の際に、女性を付けないで欲しいと両親に頼んだ。
親戚である紗七ともトラブったんだ。これ以上鞠に心配もさせたくないし、俺も仕事でのいざこざは避けたい。
俺が仕事を教わっていた第一生産事業部と、この第二生産事業部では、扱っている物こそ違うものの、大方仕事内容は同じらしい。
おかげで、紗七に教えてもらった内容にプラスして、江山さんにお世話になってる。
新人の教育係なんかも何度か務めたことがあるらしく、教え方が丁寧でわかりやすい。
しかもかなり若いのに既婚者で子持ち。
「結構スパルタだし、覚えるのしんどい?」
「いや、そんな事ないっす。
江山さんすげー丁寧に教えてくれてるし、」
「ははっ、そっかそっか。
色々悩む時期だよね、高校生は」
一度席を離れ、休憩という名目で自販機まで向かう。
紗七がいる第一も同じフロアだけど、クリスマス以降一度も顔を合わせてない。仮にばったり会ったとしても、声を掛けてくることはないと思う。
「さては、可愛い婚約者さんとの悩みかな」
「……知ってるんすね」
「さすがに社内で有名だからね、ふたりとも。
俺も用事で庶務課に行った時、頑張ってるのを見掛けたよ」
自販機にお金を入れて、ドリンクを2本買う江山さん。
お金を渡そうと思ったら「いいよ」と自然に断られて、カフェオレを奢ってもらってしまった。
……そういうとこも、すげー大人に見える。
俺が10年経っても、こうなれる気はしない。
「意外と、難しく考えなくて良かったりするよ。
さて、明日で仕事納めだし。とりあえずできることからサクッとやろうか」
彼に着いて、来た道を引き返す。
特別なにか話せたわけじゃねーけど、すこしだけ、心のくもりが晴れたような気がした。