短編『おやすみ、常盤さん』
「ここ、凄いね! おおー。エイのお腹がよく見える」
佳煉ちゃんは、館内のどこを見ても新鮮な反応を見せる。
ちなみに、下から魚を眺めることができるこのトンネルは、僕もお気に入りのスポットだ。
「ずっとこのトンネルに居たくなっちゃう。海に潜ったらこんな感じなのかなあ」
佳煉ちゃんはあちこちを見回しながら呟いた。
「いつかダイビングにも挑戦してみる?」
「いいね! しよう」
何の気なしに尋ねてみたら、すかさず答えが返ってきた。
その乗りの良さに彼女らしさを感じて、思わず笑みがこぼれる。
その後も何かを見つける度に、隣にいる僕に報告してくるその姿を愛しく思いながら見つめていた。
僕の趣味でここに来たはずなのに、彼女の方がちゃんと魚を見ているような気がしなくもない。