短編『おやすみ、常盤さん』
「凄く綺麗だったね」
「うん。僕と感性が違うから見ていて面白かった」
「なにそれー」
佳煉ちゃんは目を細めて笑っている。
僕たちは閉館の時間ギリギリになってから外へ出た。
「水族館に来るのは初めて?」
彼女の館内での様子を思い返しながら訊いてみた。
「違うよ。でも前に行ったのが小さい頃だったからあまり覚えてないかも。あと、この水族館は初めて!」
「はは。そっか」
佳煉ちゃんと過ごすのは居心地がよくて、一緒にいると彼女に釣られて心なしか気分も明るくなる。
だから同じ時間を過ごせるだけで僕は満足で、言ってしまえば場所なんてどこでもよかったのだけれど、彼女がそうとは限らない。
僕は彼女の今の満ち足りた表情を見て、漸く安心することができた。
とはいえ、いつも1人で来る場所に2人で来てみて、より一層彼女の影響力を感じてしまったのが、少しだけ悩ましい。