短編『おやすみ、常盤さん』
僕たちの歪にも感じられるこの関係が始まったのは、2か月くらい前のことだった。
通話の相手である常盤佳煉さんは、同じ大学に通う1年生の女の子だ。
授業のグループワークで一緒になって、そのために電話でやり取りするようになったのだが、そのうち仲良くなって今では用がなくても電話を繋いでいる。
常盤さんは僕とは真逆の明るい人で、話を聞いていると元気が出る。
でも、常盤さんの方はどうだろう。
大学構内で常盤さんを見かけると、いつも彼女の周りには人がいっぱいいて、どうして僕のような大して面白い話ができるわけでもない人間に構うのか、わからなくなる。
幾夜も僕と寝落ちするまで通話するくらいだから、彼氏はいないのだろうけど。
何はともあれ、彼女に話しかけるあいつらは知らない、僕だけが知っている彼女の一面がある。
その優越感と安心感から胡座をかいていると、僕はたちまち地獄に突き落とされることになる。