短編『おやすみ、常盤さん』
「秋津くん。私、好きな人ができたよ」
ある日常盤さんは、鈴を転がすような声で僕に残酷な現実を突きつけた。
青天の霹靂である。
これを自分のことかと勘違いできるほど、僕は愚かではない。
きっと彼女が以前タイプだと言っていた、金髪でチャラチャラした男のことだろう――チャラチャラというのは、僕の嫉妬心からそうに違いないと決めつけているだけの話であるが。
実際にそうであるか確認すると、イエスの答えが返ってきた。
ああ、これで終わりか、彼女の寝息をBGMにして夜明けを待つ日々も。
ついぞ彼女の「おやすみ」を聞けないままだ。
彼女の報告を聞いたときはそんな風に考えたが、意外なことに、それからも彼女から毎夜電話がかかってくる。
最初はまあ習慣になっているからそんなものかな、僕も嬉しいし、などと軽く考えていた。
しかしそのうち艱苦を強いられる羽目になる。
彼女の恋の相談相手になるという、地獄の日々が始まった。