短編『おやすみ、常盤さん』
そしてまた今日も、スマホが震えている。
今日は花火大会の日らしいのに、こんなときまで僕なんかに電話してくるとは、彼女は本当に意中の人を射止める気があるのだろうか。
「もしもし」
もはや説教した方がいいのだろうかと思い、半ば投げやりに応答ボタンを押した。
「もしもし、秋津くん?」
でも、彼女の愛らしい声を聞くと、一瞬でそんな気もそがれてしまう。
「うん。……常盤さん、この前に僕がした話、忘れてる? 変わらず結構頻繁にかけてきてくれるけど」
僕には優しく訊いてみることしかできない。
言葉を発した後、スマホの受話口の向こうで何やら物音がすることに気づいた。
「あのね」
「そっち、何か聞こえない?」
彼女が喋りかけているのに、僕の声を被せてしまった。ごめん。
「あ、花火の音かな」
なるほど。
「そっちだとそんなに聞こえるんだ」
「うん。ここからでも見えるよ。独りぼっちだけど、はは」
常盤さんが淋しそうに笑っている。
「こういうときこそ、その好きな人とやらを誘うべきなんじゃないの」
常盤さんにこんな思いをさせるなんて金髪野郎は何をしているんだ、と僕は怒りを覚えながら、できるだけそれを表に出さないように努めた。