短編『おやすみ、常盤さん』
「うん。好きな人と一緒に見たかったんだけど、最近それどころじゃないんだ。私に興味がないどころか、ちょっと避けられちゃっているかも」
悲しそうな声を聞いて、何も言えなくなった。
僕も似たようなことをしているから、これに関しては何も言う資格がない。
「見たかったなあ。秋津くんと」
――え?
ベッドから起き上がろうとして、足を踏み外してしまった。
ガタガタッと大きな音を立ててしまう。
「だ、大丈夫?」
「ごめん、大丈夫。それより、どういうこと」
「え?」
「常盤さんの好きな人って僕なの?」
鼓動が速くなる。
でも、彼女の好きな人は金髪だ。僕じゃない。
「って、そんなわけないか。ごめん、忘れて」
「秋津くんだよ」
僕の言葉に彼女が声を被せた。
頭の中が真っ白になる。
「秋津くん、だよ」