短編『おやすみ、常盤さん』


「うん。好きな人と一緒に見たかったんだけど、最近それどころじゃないんだ。私に興味がないどころか、ちょっと避けられちゃっているかも」


 悲しそうな声を聞いて、何も言えなくなった。

 僕も似たようなことをしているから、これに関しては何も言う資格がない。


「見たかったなあ。秋津くんと」


 ――え?


 ベッドから起き上がろうとして、足を踏み外してしまった。

 ガタガタッと大きな音を立ててしまう。


「だ、大丈夫?」

「ごめん、大丈夫。それより、どういうこと」

「え?」

「常盤さんの好きな人って僕なの?」


 鼓動が速くなる。

 でも、彼女の好きな人は金髪だ。僕じゃない。


「って、そんなわけないか。ごめん、忘れて」

「秋津くんだよ」

 僕の言葉に彼女が声を被せた。


 頭の中が真っ白になる。


「秋津くん、だよ」

< 7 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop