闇夜ヨルの恐怖記録 3
黒革のソファに座ると体が沈み込んで、立てなくなってしまいそうなほどだった。


それにしても、本当にこの部屋にはなにもないみたいだ。


見渡す限り難しそうな本、本、本。


女性が出ていった扉の向こうにはキッチンがあるみたいだけれど、そこはお店とは

関係なさそうだ。


「おまたせ」


しばらく待っていると女性がオシャレなカップに紅茶を入れて持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


テーブルがないのでアリスはティーソーサーごと恐る恐るそれを受け取る。


見るからに高そうなカップで緊張してしまう。


一口飲んでみると香りが鼻に抜けて、自分が大人になった気分になれた。


「あなた、ここがなんだかわかっていらしたのね?」


女性はアリスの目の前のソファに座って聞いた。


高価なソファに座るその姿はまるでフランス人形のようだ。


陶器のように白くてほくろひとつない肌は人間離れしている。


「はい。ここは手作り人間工房なんですよね?」


「そのとおりよ」


やっぱり、そうだったんだ!


アリスは自分がこのお店に引き寄せられたときのことを思い出す。


理想的なサンプルだってすぐに見つかったし、自分はここにくることを運命づけられていたようにすら感じた。
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