天空の姫Ⅰ ~二人の皇子に愛された娘~
紅蓮は虹彩樹の庭に私を連れ出す。
はじめて出会った話をする紅蓮。
あの時に戻りたい。一族は皆生きていて、私はまだ紅蓮が皇太子であることも、この人を愛するということも知らなかった。
あの時に戻ったら虹彩樹の庭になんか来ないのに。
出会わなければ、こんなに惨めで寂しい想いはせずに済んだのかもしれない。
「他に行きたいところはあるか?」
そう紅蓮は毎回聞いてくる。
あの岩場でのことも豊作の祭でのことも今では全て巧妙な嘘にしか思えない。
私が今、信じられる思い出の場所は紅蓮がいない人間界だけよ。
「…人間界が見たい」
気付いたら口に出していた。
向かったのは魔宮の地下にある忘却湖。