天空の姫Ⅰ ~二人の皇子に愛された娘~
「では忘却湖に行こう」
そういって紅蓮は私を抱き上げ忘却湖へ向かう。
紅蓮の姿を目に焼き付けようと見つめるも、紅蓮は一度もこちらをみようともしない。
もうこの腕も優しさも私の物ではないことを悟った。
忘却湖につき下ろされる。
相変わらず、ここの景色は美しく最後を迎えるのは忘却湖で良かったと思えた。
「紅蓮見える?あれが私の家よ。一度も教えていなかったわね」
「…」
湖に映る人間界での自分の家。
いつか紅蓮と人間界へ行きたがったっけ。
でも、そんな紅蓮は虹彩樹の庭の方が美しいと言って、からかってきたわ。
あの岩場では私の白銀の翼を美しいとほめてくれた。
思い出すのは、楽しいことばかりだった。
だから最後に紅蓮の口からききたかった。
「紅蓮、きいてもいい?」
「ああ」
「玲心との婚約は本当なの?」
「ああ。本当だ」
心のどこかで紅蓮を信じていた。本当は婚姻なんてしてなくて、ただ忙しいから会いに来れないとそう思いたかった。
正室を娶らないと言った約束を守ってほしかった。