社長、それは忘れて下さい!?
Phase_1
1-0. Prologue
出社した涼花が最初に行うことは、執務室内に朝の光を取り込むことだ。いつものように電子パネルを操作してオートブラインドを開けると、広い室内はあっという間に自然光で満ち溢れる。
地上二十八階ビルの最上階に差し込む朝日は、地上の光よりも強く眩しく感じる。涼花は高い場所からコンクリートの絨毯を眺めて、深く息を吐いた。
この週末で何度目になるかわからないほど、溜息と深呼吸を繰り返している。新卒で入社して六年目、社長秘書に配属されてから四年目ともなれば、大きなミスはしなくなっている。だから溜息の理由は、仕事のミスが原因ではない。
涼花が深い息を吐き切ると同時に、執務室の入り口からドアロックが解除される電子音が鳴った。
思わず呼吸を止めてしまう。涼花は自分の身体が強張るのを感じたが、わかったところでコントロール出来ない。
ロックの解除音の後に入ってきたのは、グラン・ルーナ社の社長第一秘書で先輩でもある藤川 旭だった。
「おはよう、涼花。今日も早いね」
旭の出社にほっと息をつくと、いつもの挨拶に応える。
「おはようございます、藤川さん」