社長、それは忘れて下さい!?

 もちろん杉原がこのまま怒って帰るならそれでも構わない。後から何か言ってくる可能性はあるが、女性スタッフも女性招待客も多い今の状況を考えれば、ここで何かの問題が起こるより対処はずっと楽だろう。

 これが旭が企画部と協力して用意した、杉原の動きを封じるための罠だった。

 イベントの進行上、どうしてもボディーチェックを受けなくてはいけない状況を作り、彼が隠し持つ下劣な薬を奪い取る。仮に目的の物を回収できず彼がこの場を去ったとしても、今日この場で被害者を出すという最悪の事態は回避できる。どちらに転んでもこちらに利がある。そう見越して組み立てた罠なのだ。

 しかしフンと鼻を鳴らした杉原は、

「構わない。だが早くしてくれ!」

 と急にふんぞり返った。この横柄な態度に涼花も旭も一瞬怯んだが、一応ボディーチェックは受けてくれるようだ。

 旭は他の招待客よりも時間を使い、入念に杉原の身体を検めた。ポケットの中身もトレーの上にすべて出してもらう。

 だがいくら入念に確認しても、不思議なことに杉原の所持品からは薬のようなものは一切見つからなかった。

 意外な展開に涼花は内心で焦ったが、礼を言い終わればあとは杉原が身の回り品を納める様子を見守る他ない。もちろん旭の眉間にも深い皺が刻まれている。

「ありがとうございました。それでは大変申し訳ございませんが、秘書の方もお願いします」
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