社長、それは忘れて下さい!?

 仕方がなく旭が告げると、杉原の後ろで縮こまっていた秘書の身体がビクリと跳ねた。そのわかりやすい変化は、涼花の目にも明らかに不審に映った。

「あぁッ、いや! こいつは別にいいだろう!?」

 だが仮にその様子を見逃していても、特に問題はなかったかもしれない。

 旭の言葉に最も反応したのは、たった今ボディーチェックを終えたばかりの杉原だった。杉原は自分の秘書が口を開く前に、周りが何事かと振り返るほどの大きな声で自分の主張を喚き始める。

「こいつは関係ない、招待を受けたのは私だ! 景品が当たってもこいつには貰う権利はないしな!」

 どう見ても自分のボディーチェックより拒否反応が強い。涼花は白々とした気持ちになったが、目の前にいる旭は涼花よりももっと白々とした表情を浮かべていた。頬の上には一体なんの猿芝居を見せられているのかと書いてある。

「大変申し訳ございませんが、ボディーチェックは会場に入られる皆様全員にお願いいたしております」

 コホンと咳払いをした旭の言葉に、秘書の目がウロウロと泳ぎ出した。杉原はまだ何か言いたそうにしていたが、周囲の視線を集め出した事に気付いたらしい。騒ぐと目立つと思ったのか、彼の言動はだんだんと勢いを失い、あとは落ち着かない様子でその場で足を踏み鳴らすだけになった。
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