社長、それは忘れて下さい!?
「これは、社長のものでしょうか?」
「えっ、あ、いや……そうだ! ……いや、違う!」
杉原は明らかに動揺したように発言を二転三転させる。狼狽えた彼は旭と目を合わせないように顔を背けたが、このマニキュアが『当たり』であることはもはや疑いの余地がなかった。再度トレーの上を確認するも、彼の所持品には明らかに怪しいマニキュアボトル以外に、特別変わったものはないのだ。
「そ……それはさっき、店の外で拾ったんだ!」
思い出したと言わんばかりに、杉原が突然大声を出した。その場にいた人々の視線が一気に集中すると、彼はまた言葉を詰まらせた。
杉原は咄嗟に口をついて出た言い訳をさらに信憑性の高い主張にしようと言葉の引き出しを開閉していたが、その間に涼花と旭のアイコンタクトは終わっていた。
「杉原社長、拾って下さっていたのですね」
「え? ……は?」
「実は私、先ほど会場入りした際に、入り口でバッグを開けてしまって。その時に持っていたマニキュアを落としてしまったみたいなんです」
「あぁっ、いや! これは違……!」
涼花は口の端をわずかに上げ、目を細めただけの作り笑いを張り付ける。怒気が含まれた笑顔に気圧された杉原が一歩後退すると、後ろにいた秘書の肩に身体をぶつけてしまう。だが涼花は構わずさらに一歩前進すると、おもむろに杉原の手を取った。