社長、それは忘れて下さい!?
「気付いて探しに行こうと思っておりましたが、開場時刻になってしまったので探しに行けずにいたんです。本当にありがとうございます」
涼花は怒りの感情を胸の奥に押し込み、今度は優しい微笑みを浮かべた。先程の作り笑いとは違う、心からの笑顔だ。
杉原社長、ちゃんとボロを出してくれてありがとうございます。
という心の声は間違っても外に出さないよう、感謝の気持ちだけを前面に押し出す。
「つ、次から気をつけたまえよ」
涼花の笑顔を見た杉原は一瞬呆気に取られたように惚けたが、すぐに赤くなった顔を隠すように、覚束ない足取りで会場の奥へ逃げて行った。どうやらこれ以上ゴネても自分には分が無いと悟り、小瓶の回収を諦めたらしい。
残された秘書が一瞬遅れて動き出す。旭はトレーの中身を全て引き渡すと、二人分の星形プレートを秘書の目の前に差し出した。
「宝を発見されましたらこちらと交換になりますので、どうぞお持ちください。長々とお手間を取らせてしまい大変申し訳ございませんでした。本日はどうぞ楽しんで行って下さいね」
杉原の秘書は手を震わせながら星形のプレートを受け取ると、上司の背中を追って慌ただしく会場の波へ消えていった。
旭は掠め取った小瓶を上着のポケットの中に落とすと、
「涼花は九十五点」
と涼花にしか聞こえない音量でそっと呟いた。