社長、それは忘れて下さい!?

「ん? これ女子が使う、爪に塗るやつだろ?」
「やっぱりそうなの? けどこれ、色ついてないけど?」

 宇宙の成り立ちから微生物の構造まで何でも知っていそうな龍悟にも、苦手分野があるらしい。同じく釈然としない様子の旭と同時に視線を向けられ、涼花は『なるほど』と納得した。涼花も仕事の関係上あまり凝ったネイルはしていないが、幸いなことに親友がネイルサロンの経営者だ。色々と教えてもらっているので、人並み程度には知識がある。

「透明のものもあるんですよ。ベースコートやトップコートといって、色を着ける前の下地や、色を着けた後の保護とか補強に使うんです」

 涼花は置かれた小瓶を手に取ると、蓋を反時計回りに動かしてみた。キュ、キュ、と音を立てながら蓋が回転すると、中で刷毛もくるくると回る。

 神妙な顔で涼花の行動を見守る龍悟と旭の目の前で蓋を引き抜いてみる。だが液体は予想していたほど粘度がなく、薄めたように水っぽい。

「やはりネイル剤ではないようですね。匂いも違います」
「こら、不用意に嗅ぐんじゃない」

 重力に従って水滴がほとんど落ちた刷毛に鼻を近づけてみるが、ネイル剤特有の強い匂いはせず、ほとんど無臭に近い。龍悟に制止されて慌てて顔を離すと、小瓶の蓋を閉めてテーブルの上に戻した。
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