社長、それは忘れて下さい!?
「はい、特に問題はありません。ちゃんと回収できてよかったです」
涼花が頷くと、龍悟も安心したように『そうだな』と呟いた。
時計を確認すると、そろそろ宝探しゲームが始まる時刻になっていた。一度退いていた主催者が再び会場に姿を現すにも丁度良い頃合いだろう。
「私は覚えていないのですが……吐き気がするんでしたよね?」
「秋野は吐かなかったぞ?」
「いえ、そうではなく……」
逆ならば兎も角、秘書の吐瀉物を社長に処理などさせられる訳がない。人の良い龍悟なら気にせず世話を焼くだろうが、涼花は絶対に嫌だ、と首を振りつつ、考えている事とは別の言葉を口にした。
「お客様が口にして万が一嘔吐でもされたら、新店のイメージが台無しです」
飲食店経営者の秘書らしく至極真っ当な意見を述べたつもりだったが、龍悟は一瞬目を丸くしたあと、突然豪快に笑い出した。
「はっはっは! それもそうだな」
「笑い事ではありません」
当然、龍悟もその可能性には気付いていただろう。実際のところ涼花は嘔吐しなかったらしいが、同じ薬物を口にして吐いてしまう人がいてもおかしくない。