社長、それは忘れて下さい!?
涼花の感嘆に龍悟も頷く。宝探しゲームの本来の目的は別にあったが、取引先の女性社員や役員のご令嬢たちには思いの外好評だった。
店内の至る所に隠された『宝』である星形の飴やチョコレートは、招待客に次々と見つけられていった。そしてその内たった三皿しか用意のなかった限定デザートプレートの一つを、吉木社長の幼い愛娘が見つけてしまったのだ。飴玉は観葉植物のプランターの中に隠されていたので、身長の低い女児には見つけやすかったのかもしれない。
琉理亜は両親に得意気に胸を張っていたが、運ばれてきたデザートプレートの頂点にあったイチゴをフォークに差すと、それを両親ではなく会場に戻ってきたばかりの旭の口の前に差し出してきたのだ。
「藤川さん、気に入られてましたね」
涼花が呟くと、旭は少し照れたように肩を竦めた。
「それを言うなら社長でしょう。今日は一体、何人のご令嬢を紹介されたんですか?」
「……そんな事、もう忘れたよ」
旭の軽口を聞いた龍悟が、不機嫌そうに窓の外へ視線を向ける。もちろん記憶力も人付き合いも完璧な龍悟が、取引先や交流のある人達から身内を紹介されてその日のうちに忘れるはずがない。ならばその台詞は『その話題はしたくない』というただの意思表示だろう。察した旭はくすりと笑みを零すと、すぐに視線を前へ戻した。