社長、それは忘れて下さい!?
歓談の最中、不在の旭に代わり涼花が龍悟の傍に付き従った。だがいつもより華やかに装った涼花の姿を認めると、顔見知りであるはずの取引先の重役たちは揃って気まずそうな顔をした。
涼花もそこまで鈍感ではない。すぐに距離を置くと、彼らは安堵したように息を漏らし、次の瞬間には喜色満面の笑みを浮かべて自慢の愛娘を龍悟の前に差し出した。
その様子を見ていると、やはり龍悟は雲の上の存在なのだと思い知る。彼らは龍悟に娘を紹介したいと思っている。娘たちも龍悟からの関心を望んでいる。
彼がこの中から誰を選ぶのか、または誰も選ばないのかはわからない。けれど華やかな女性たちに囲まれている姿を黙って眺める気持ちにはなれず、涼花は人の群れからそっと離脱した。
そのお陰もあり、涼花は会場内やキッチンの様子、新しい調度品やメニュー表を自分の目で確認して、さらに大好きなフルーツタルトにもありつくことができた。
涼花がタルトやドリンクを幸せな気持ちで堪能していると、時折龍悟の前に群がる人とは別の役員たちに話しかけられた。
彼らは涼花に対して自分の功績や、年配の者は自分の子息の近況を語って聞かせてきた。だが話が盛り上がってくると、決まって龍悟に呼び戻されてしまう。
何処にいてもめざとく姿を見つけ、大した用事もないのに涼花を呼び戻す龍悟の行動には疑問を感じた。だがその疑問の答えを導き出す前に、最後の挨拶が始まってしまった。