社長、それは忘れて下さい!?
今日の出来事を頭の中で整理しているうちに、社長専用車はグラン・ルーナ社の正面玄関前に到着した。
車から降りて、時計を確認する。時刻は二十時を回っており、オレンジ色の光が灯されたエントランスにはすでに人の気配はない。
涼花がエレベーターに社員証を翳すとすぐに扉が開く。三人揃ってその空箱に乗り込むと、今度は旭が最上階のボタンを押した。
「今日の代休は半年以内に取れよ。半年超えたら俺は知らないからな」
「半年ですか……。でしたらクリスマスはギリギリ使えますね」
「ほう、いい度胸だ」
また龍悟と旭が冗談を交わし始める。飲食業界で繁忙期となるクリスマスシーズンに代休を捻じ込む勇気は、涼花にはない。旭もそれを知っているとは思うが、長年付き合っている恋人がいると聞いているので、クリスマスまで馬車馬のように働くのは切ないだろう。
「七面鳥が食いたいなら、届けてやるぞ」
「えぇ~……会社にですか?」
「喜べ、アルバの直営農場で育てた特大サイズだ」
「デスクが汚れるので遠慮させて下さい」
「上品に食え、上品に」
「……ふふっ」
涼花はいつものように聞き流そうとしていたが、大の大人が揃ってクリスマスのことでじゃれ合っているのを見ると、何だか急におかしくなってきてしまった。
「あ、申し訳ありません」
笑い声が零れてしまったことに気付き、指先で口元を覆う。下手に反応すれば夏のうちから分かるわけもないクリスマスの予定を聞かれそうな気がしたが、視線を上げると二人が涼花の顔を物珍しそうに見つめていることに気が付いた。