社長、それは忘れて下さい!?
「いえ……いつも楽しそうですが、今日はいつもより楽しそうだと思いまして…」
顔を背けながら話題を振られないよう祈りつつ呟く。二人が微かに笑った気配を感じ取ったが、涼花がそれ以上何も言えずにいると、エレベーターは二十八階に到着した。
龍悟と旭がエレベーターから降りると、涼花も中で『閉』ボタンを押して扉から離れる。そして執務室に向けて歩き出した旭が『楽しそう』の理由を話してくれた。
「上手くいったからさ。次のパーティーの時にまたやってみてもいいかも」
元々企画部にいた旭にとって、今日の企画は久々の仕事だったのだろう。そして急揃えではあったが、内容的には十分手ごたえを感じられるものだった。帰り際に『本オープンが楽しみ』『また食べに来たい』と喜んでくれた招待客の顔を思い出す。
「そうですね。パーティーだけではなく、一般のお客様にも喜ばれそうです」
涼花の意見に、旭が満足そうに頷いた。もちろん秘書である旭や涼花は、企画を打診する立場にない。自らの業務から逸脱する発言や行動をすれば、それがどんなに正論や正解であってもやっかむ人間はいるし、不協和音の原因となる。
今回は社長命令という大義名分があったので異例の形で実行にこぎ着けたが、今後この企画をどう活かすかは優秀な社員達の手に委ねることとなる。だからこの話は、ここだけの話だ。
「で、社長が楽しそうなのは、今日の涼花がすごい綺麗だからですよね?」
「お前なぁ……」