社長、それは忘れて下さい!?

3-8. Get your warmth

 涼花の残業は十五分ほどで終了した。パーティーで交換した名刺のデータ化を終えて、スケジュール管理ソフトに予定を入力する。予定がタブレット端末にも反映されていることを確認すると、涼花は席を立って龍悟の傍に寄った。

「社長。終わりましたので、退社させて頂きます」
「ん、じゃあ帰るか」
「えっ……?」

 残業の終了を告げると、さも当然のように返答され、思わず驚いてしまう。

「家まで送ってやる」
「えぇっ? そ、そのために残ってらしたんですか!?」

 涼花の家は会社の近くだ。繁華街にも近く、駅からもさほど離れていない好立地のマンションは、ルーナ・グループに所属する社員が優先的に斡旋を受けられる物件だ。しかも住宅手当が多めに支給されるため、新人の頃から給料の範囲内でもやりくりしていける。だがそれゆえに、社員の入居数も多い。

「私の家、ここから徒歩圏内ですので……」
「それは知ってる。けど今日は薄着だし、女子なんだから危ないだろう」
「だ、大丈夫です……本当に」

 他の社員に見られるのではと思って再度断るが、龍悟は譲らない。前にも似たやり取りをしたことを思い出す。前回は今日より遅い時間であったことと、強引に話を進められてしまったことで断り損ねた。しかも結局、家まで送ってもらうこともなかった。
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