社長、それは忘れて下さい!?
(し、しまった……!)
心の中の秘め事のつもりが、声になって外に出ていたらしいことに、かなりの時間が経過してから気付く。
自分では何処から何処までを口走っていたのかわからない。けれど龍悟の反応を見れば、余計な言葉を口にしたのは明らかだ。
「俺の勘違いじゃない、という認識でいいのか?」
涼花は自分の発言を取り消そうと慌てたが、龍悟はすぐにその手首を掴まえて、自分の傍にぐっと引き寄せた。
「秋野? 忘れたくないんだろう? ……何故だ?」
龍悟の整った顔が眼前に迫って、思わず顔を背ける。詰め寄られた涼花に逃げ場はなく、訂正も誤魔化しも間に合わない。
「え、いえ……それは」
「ここまで言っておいて、言わないつもりなのか?」
責められるように問われ、頭が真っ白になってしまう。迂闊にもほどがある。これまでの三年間、表に出さないようにひた隠しにしてきた想いを、まさか自分で暴露してしまうなんて。
――あぁ、もうここにはいられない。
この想いを知られる訳にはいかなかった。
来週から気まずい思いをしながら、そして気まずい思いをさせながら仕事が出来るほど涼花の神経は図太くない。だがキッパリ振られたからといって即座に頭を切り替えられるほど心の構造も簡単ではない。
こうならない為にずっと隠してきたのに。陰の存在として誠心誠意尽くせるだけで、幸せだったのに。満足していたのに。