社長、それは忘れて下さい!?
「秋野?」
呼ばれて視線を上げると、龍悟は笑っていた。楽しそうでいて慈しむような、優しい笑顔で。
その笑顔にまた見惚れそうになる。勘違いしそうになる。
龍悟から離れるために、掴まれた手首を引っ込めようと力を込める。けれど涼花の初動を感じた龍悟が一瞬早く指先に力を込めたせいで、わずかな抵抗も形にならなかった。
そのまま数秒、数十秒と時間が過ぎる。じっと見つめ合ったまま、何も言えないまま、身体の温度だけがじわりと上昇していく。
龍悟は涼花の口から答えを聞きたかったようだ。けれど涼花が硬直して動けなくなってしまったことを確認すると、ふっと表情を崩して微笑んだ。
「もういい、わかった。お前が言えないなら、俺が言ってやる」
その宣言に怯んだ涼花は、そこから一歩でもいいから下がろうとした。龍悟の瞳に宿った温度に気が付くと、思わず逃げたくなってしまった。
けれど結局、それは適わなかった。龍悟は手首を掴んでいた手と逆の手で涼花の腰を掴むと、そのまま力を込めてきた。開こうとした距離が、逆にあっという間に縮まってしまう。
「俺にはお前が必要だ。部下としてももちろんだが、それ以上にもっと傍に置いておきたくなった。俺はお前が――」
龍悟の指先が涼花の顎の下に添えられ、そっと視線を誘導される。腰に回された大きな手に力が込められると、いつもより高いヒールの上でさらに踵が持ち上がる。
首に触れられたくすぐったさを感じる暇もなく、涼花の唇はそっと塞がれていた。