社長、それは忘れて下さい!?

「なんだ? もしかしてまだ仕事に支障が出ると思ってるのか?」

 考えていた事とは全く違う事を言われて、思わずはっとする。

 甘い空気に流されてすっかりと忘れていたが、日曜を挟んで月曜からはまたいつもの仕事が始まる。龍悟とこうして想いが通じ合うとは微塵も想像していなかったので、職場での心配などすっかり頭から抜け落ちていた。

 う、と言葉を詰まらせる。週明けからは、この関係を隠すための配慮が必要だ。とりあえず旭には報告しなければならないだろう。そんな報告などしなくても鋭い彼なら察しそうだが、言わずに隠すのは気が引けるし無理があると思う。

 それに大変なのは旭よりもその他の人々だ。社内外問わず、社長とその秘書が特別な関係である事を知られて得な事など一つもない。涼花も龍悟も独身だが、一度でも不適切な関係だと噂が立てば、影響が大きいのは涼花ではなく龍悟の方だ。

「問題ないだろ。俺は公私の区別はつけられるし、お前は感情を隠すのが上手いしな」

 涼花の青ざめた顔を見ても、龍悟は何でもないことのように笑う。

「……俺は知られても構わないが」
「何を仰るんですか!」

 思わず怒りを含んだ声が出る。龍悟は一瞬の間を置いたが、すぐにふっと笑みを零した。涼花は唇を尖らせて引き締まった胸板を手のひらで押し返すが、小さな抵抗は龍悟には全く効かず、伸ばした手首はあっけなく掴まれてしまった。
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