社長、それは忘れて下さい!?
龍悟と特別な関係になりたいなどと、高すぎる望みを持ったのは涼花の方だ。本来踏み込むべきではなかった胸の中に飛び込んで甘えた自分が悪いというのに、龍悟が申し訳ないと思う必要なんて一つもない。だから。
「そのまま忘れていても、何の問題もありませんから……」
「そんな訳ないだろう!」
龍悟に怒鳴られ、思わず身体がびくりと跳ねる。気付けば目には涙が溜まり、視界がゆらゆらと揺れていた。
龍悟の眼にはとっくに泣き出しそうになっている表情が映っているだろうから、これがただの強がりであることも彼はきっと理解している。
だから龍悟は怒ってくれた。忘れていていい訳がないと、言ってくれたけれど。
「答えろ。俺はお前に、昨日なんて言った?」
涼花の気持ちを知ってか知らずか、龍悟は涼花の肩を掴むと顎を捉えて自分の方へ向けさせた。その眼にはまだ困惑と不安が残っていたが、それよりも怒りで燃え盛るような温度を孕んでいた。
火傷をしそうなほどの痛い視線にさらされ、涼花の瞳に滲んでいた涙がぽろ、と零れ落ちた。その雫が頬の輪郭を辿ってシーツの上に消えても、龍悟の怒りは消えてくれない。
「忘れていいって、なんだ?」
「……」
「お前は、俺の気持ちを知ってるんだろ?」
「……ぃや」
「その気持ちも忘れろってか? お前は、俺の事をどう思っ……」
「社長!」
もう、止めて。
あなたはまた忘れてしまう。
どうせ忘れてしまうのなら、これ以上愛の言葉なんて囁かないで。情熱的な台詞なんて紡がないで。