社長、それは忘れて下さい!?
涼花の心の声が通じたのか、龍悟の瞳から怒りの影が立ち消えた。自分の方を向かせるために顎の下に添えられていた指先が名残惜しげに、けれど力なく離れていく。
涼花は肩に添えられていた龍悟の手を振り解くと、手首の骨張った場所でぐっと涙を拭った。
「着替えを……」
絞り出すような声でどうにかそれだけ呟くと、身体の向きを変えてベッドから出る。シーツの隙間から這い出た脚を見て、ようやくお互いに裸だったことを思い出した。けれど最早恥ずかしさすら沸き起こらず、そのままベッドサイドに立ち上がる。
ベッドの足元側にバスローブが落ちていることに気付く。そこへしゃがんでバスローブに腕を通してから立ち上がると、ふらつく足を何とか動かして洗面所へと向かう。
「くそ……っ、なんで……!」
脱衣場のハンガーにかけてあったワンピースを手にして、洗面所の扉を閉める。閉じた扉の向こうで苛立ちを吐き出すような龍悟の怒声と、拳を壁に突き立てた鈍くて重い音が聞こえたが、涼花にはもうかける言葉も見つからなかった。