社長、それは忘れて下さい!?
3-11. Closed feel
龍悟をホテルに残し自宅へ戻ると、慣れた部屋着に着替えてベッドに身体を沈める。緊張の糸が切れると、また涙が溢れて零れそうになった。
本当はもっと龍悟と一緒にいたかった。彼の香りを感じながら、大きな腕に抱かれて眠っていたかった。
だがそれは涼花の過ぎた願望だ。高望みが過ぎるから罰が下ったというのに、未練がましくまだぬくもりを求めるなんて、自分はなんて浅ましいんだろうと自嘲する。
「社長……」
困らせてしまった。
失望させてしまった。
秘書として、良きビジネスパートナーとして、彼の傍にいたいと思った。隣で仕事が出来るだけで幸せだったし、いつか離れる時が来るまで、この想いを秘めてでも龍悟の役に立ちたいと思った。
龍悟が直々に下した社長命令は、涼花には重すぎる役目だったのかもしれない。自分の身の丈に合った願望に留めておけば良かったのに『俺のために笑えるようになれ』と言われ、その気になって彼の誘いに乗り、踏み込んではいけない領域に足を踏み入れてしまった。
涼花は龍悟の肌の温かさを知ってしまった。香りを、視線を、指遣いを覚えてしまった。
そして同時に、彼の想いも知ってしまった。それがいつからなのかはわからないが、龍悟は涼花の事を特別な意味で好いていた。