社長、それは忘れて下さい!?
Phase_4
4-1. Want you
大丈夫! 笑顔! 頑張れ涼花!
家から会社までの通勤中、心の中で同じ言葉を何度も何度も反復する。
週明けの秘書にはやることが多く月曜はいつも早めに出勤するので、会社の付近にもエントランスにもまだ人はまばらだ。だから多少心の声が外に漏れても、不審な目を向ける人はいない。
パネルに社員証を翳してエレベーターに乗り込むと、誰も居ない箱の中でも同じ言葉を繰り返す。
泣きすぎて浮腫んだ目の腫れは引いた。心配したエリカから来たメッセージにも『今度ゆっくり飲みに行こう』と返信した。龍悟に会った時の脳内シミュレーションも何度も繰り返した。だから大丈夫……大丈夫だ。
最上階に到着したエレベーターを降りて執務室まで歩き出す。誰も居ないフロアにヒールの音がコツコツと響く。涼花の心音と同じ速さで響く靴の音に、大丈夫のリズムを乗せる。
あっという間に辿り着いた執務室の電子ロックに社員証を翳すと、短い電子音が聞こえる。深呼吸をする。そしてもう一度『大丈夫』と呟くと、意を決してドアを開けた。
一瞬、視界が奪われる。毎朝涼花が開けるはずのブラインドは何故かすでに開かれ、執務室は明るい光で満たされていた。
「え……社長!?」
その明るい朝日を背に、龍悟が自分のデスクに座ってすでに仕事を始めていた。彼は涼花の声に反応して顔を上げると、少し疲れたような声でゆっくりと頷いた。