社長、それは忘れて下さい!?
スカートの上に置いた自分の手が微かに震えているのがわかる。この震えが恐怖なのかショックなのか、自分では判断ができない。
けれど龍悟は、話を終わりにはしてくれなかった。
「待て、秋野。俺は……昨日の返事を聞いていない」
デスクについていた手を離した龍悟は、涼花の目の前にしゃがみ込んで強引に視界に入ってきた。社長に膝を突かせるなんて、と涼花は慌てたが、龍悟は気に留めた様子もなく涼花の手の上に自らの手を重ねてきた。
「お前は、俺の気持ちを知っているんだろう?」
龍悟は少し怒ったような焦ったような声で、昨日と同じ問いかけをした。その目を見つめた涼花は、また泣きそうになってしまう。
(なんで……)
折角無かったことにしようとしているのに、思い出そうとするのだろう。思い出させようとするのだろう。それを知ってどうするのだろう。
龍悟の問いに答えられず黙ってしまった涼花の様子を見て、龍悟はふと質問を変えた。
「お前は?」
意味を理解しかねる短い問いかけに、思わず顔を上げてしまう。龍悟は涼花と視線が合うと、逃さないとでもいうように重ねた指先に力を込めた。
「お前は、俺の事をどう思っている?」
上から手を掴まれ、涼花は最後の逃げ場も失う。龍悟の手は温かく、涼花の心の震えさえ取り払うようなぬくもりがあったが、その優しさに甘えることはできない。けれど見つめられた視線は熱く、逃れることもできない。
「……っ」