社長、それは忘れて下さい!?
愛しい人に見つめられ、涼花はまた胸の奥に熱が灯る気配を感じる。どろどろに溶けた感情が周囲の全てを巻き込みながら燃焼する。痛い想いが、涼花の決心を焼こうとしている。
その熱さに負けないよう、涼花は必死に頭を動かして何とか言葉を絞り出した。
「仕事が出来なかった私を、見捨てず傍に置いてくれて……。いつも優しく指導して下さる、良き上司であると……思っています」
「……それだけか?」
さらに優しく問われたが、そのままこくん、と顎を引く。今の涼花にはそれ以上何も言えない。
貴方が好きです、と正直に伝えたい衝動が胸の奥から湧いてくる。その一方で現実を見て冷静になれ、と真っ当な意見が脳から鋭利に落ちてくる。相反する二つの感情がぶつかり、その衝突の勢いで胸が張り裂けそうだった。
涼花の答えを聞いた龍悟は落胆したように息を吐いた。重ねた指先に一瞬強く力が込められて、わずかに痛みを覚える。だがその力もすぐに抜け、涼花の手の上からそっと離れる。
「……そうか。――わかった」
膝をついて涼花を見つめていた龍悟は、その場で立ち上がると話の終わりを告げる台詞を呟いた。
涼花は俯いたまま唇を噛み締めた。すぐに訂正したい気持ちが沸き上がるのを何とか押さえ込んで口を噤む。
これで涼花の恋は終わりだ。
龍悟との思い出も、龍悟に対する気持ちも、いずれ胸の奥で鎮静化するだろう。あとは時間が解決してくれるのを待つしかない。その間、涼花はせめて龍悟に不便をかけさせないよう、仕事に打ち込むだけになった。