社長、それは忘れて下さい!?
4-2. Side:First secretary
旭は月曜の朝から、龍悟と涼花の様子に違和感を感じていた。
まず龍悟に覇気がない。一ノ宮龍悟という人物は男の目から見ても感動を覚えるほど、立つ姿も座る姿も優雅で気品がある。高身長で引き締まった体躯と端正な顔立ちも魅力的だが、野性的な感性と知性的な頭脳を併せ持ち、それでいて性格は温和である完璧で魅力的な存在だった。
だが週明けから、龍悟の美点が一ミリずつ削り取られているような不思議な印象を受ける。それは恐らく、彼を余程注意深く観察するか、接する時間が長い者ではないと気付かないほどの些細な変化だろう。
そしてそれ以上に、涼花に元気がない。秋野涼花という人物は元々物静かで穏やかな性格だが、決して根が暗い訳ではない。他人をよく観察して細やかなところに目を向ける一方で、相手にそれを悟らせないよう上手く立ち回れるような気遣い上手だ。
その涼花も、今週は恐ろしく集中力に欠けている。社員や来客への応対には問題がないが、先週調整した会食の予定変更を伝え忘れたり、データのバックアップを取り忘れるといった普段では考えられないようなミスが多い。
極めつけに、大好きなはずのコーヒーの味が驚くほど安定しない。一杯分の豆で三人分のコーヒーを入れたり、ブラックコーヒーをお願いしたのにカプチーノのようなミルクと泡だらけの飲み物が用意されたこともあった。