社長、それは忘れて下さい!?
涼花の笑顔に見惚れていた相手の顔を思い出したので、何気なく言ったつもりだった。だが龍悟は憮然とした様子で、不満そうに鼻を鳴らす。
「普段は全然笑わないのにな。腹立つよ、本当。何であんな狸親父に……」
「社長。その不機嫌、顔に出てましたよ? 良かったですねー、向こうが涼花の顔見ててくれて。社長の顔見たらせっかくの契約がご破算になるところでした」
「……言うなぁ、お前」
旭の軽口に、龍悟が呆れたように呟く。旭が笑うと龍悟は観念したように、けれど心底不満げに深い息を吐く。
「良い上司でいるのも疲れるな」
「……は? 何ですか、突然」
意味がわからない事を言い出した龍悟に、思わず真顔で返してしまう。眉を寄せて首を傾げると、それを見た龍悟が肩を竦めた。
「秋野の俺の評価は『良い上司』らしいからな」
自嘲気味に笑う龍悟の言葉を聞いて、週明けから龍悟と涼花に感じていた『違和感』が二人の間に何かがあったという『確信』に変わる。
相手が上司だろうが同僚だろうが取引先だろうが、普段の涼花は淡々と仕事をこなすだけだ。
そんな涼花が取引先の社長に笑いかけたことが、龍悟としては余程面白くなかったらしい。それが作り笑いであることは龍悟も見抜いているだろうし、旭ももちろん気付いている。だが今までの涼花は、作り笑いも上手く出来ないほど何処か気を張っていたのだ。