社長、それは忘れて下さい!?
1-3. Get closer
「お話中に失礼します。店長、この辺ってタクシーすぐ掴まりますか?」
談笑しているところに割り込んでしまうことを申し訳ないとは思ったが、どのみち会計があるので声をかける必要がある。龍悟と店長に同時に視線を向けられ、涼花は自分の座っていた席を振り返った。視線の先ではエリカがテーブルに突っ伏して眠っている。
「あらら、エリちゃん、寝ちゃったんだね。タクシーは通りに出ればすぐ掴まるけど、頼めば店の前まで来てくれるよ。呼ぼうか?」
「はい、お願いします」
店長の申し出をありがたく受けることにする。
エリカは他人のことをお酒に弱いと笑っていたが、実は本人もそこまで強くはない。悪酔いするほどではないが、許容量を超えると急激な睡魔に襲われて、いつでもどこでも眠ってしまうタイプだ。
会計を済ませると、自分のバッグとエリカのバッグを持って、細い身体を揺すってみる。しかしエリカは『う~ん』と声を出してうっすら目を開けても、すぐにその目を閉じてしまう。やはり歩いて帰宅できる様子ではない。
「社長、お先に失礼します。ごちそうさまでした、店長」
「また来てね」
エリカの身体を抱えて店を出ると、到着していたタクシーにエリカ本人と彼女のバッグを放り込む。本当はちゃんと送ってあげたいが、エリカの家は意外と遠い上に涼花の家とは反対方向だ。
「もう帰るのか?」