社長、それは忘れて下さい!?
「俺には笑ってくれないのか?」
涼花の瞳を見つめたまま、すっと手を伸ばした龍悟の指先が、ほんの少しだけ手の甲に触れる。涼花が驚いて手を引っ込めると、龍悟が少し傷付いたように苦笑いをした。
「……そんな顔をさせたいんじゃない」
龍悟もすぐに手を引っ込めて、大きな椅子に背中を預けた。気だるげな動作から龍悟が諦めてくれた気配を感じて、涼花はほっとしたような辛さが増したような感情の間で揺れ動いた。
すぐにでもここから逃げたい気持ちになる。役に立つと決意したのにその気持ちがあっさりと揺らぐ不甲斐なさと、龍悟の言葉を否定したい気持ちが芽生える。考えるほどに胸の奥がきゅう、と締まるような、音のない痛みに晒される。
「悪かったな。俺のわがままに付き合わせて」
「ち、違……!」
龍悟の諦めたような言葉を否定しようと思ったが、涼花は二の句が継げなかった。今の涼花には言い訳をする権利さえない。
「……申し訳、ありません」
やっとの思いでそう呟くと、そのまま自分の席に戻る。
旭が帰って来るまで執務室の中には沈黙が続き、涼花は龍悟の言葉を頭の中で反復しては自分を責める辛い時間を無為に過ごした。