社長、それは忘れて下さい!?
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業務後、旭に呼び出された涼花は、そのまま彼が行きつけだという近くのお好み焼き屋に移動した。
椅子の背もたれが高く、周囲も賑やかなので、周りに気を遣う必要もない。ブラウスにソースが飛ばないよう細心の注意を払いながら、涼花は旭が器用に焼き上げたふわふわのお好み焼きを頬張った。
「旨いでしょ?」
「はい、美味しいです」
「よかった。旨いもん食うと、幸せになれるよね」
旭も笑いながらお好み焼きを口に運ぶ。『俺、旨いもんいっぱい食べれてこの職場すごい好きなんだ』と旭が笑うので、涼花もつられて気が抜けたように笑ってしまった。
このお好み焼き屋はグラン・ルーナ社の経営店ではない。都心のビルの高層階に高級鉄板焼きの店はいくつかあるが、お好み焼きもいいなぁ、と思う。呑気な事を考えていると、旭が神妙な顔で本題を切り出してきた。
「涼花、大丈夫?」
「え……と、どういう意味でしょうか?」
「いや、最近ずーっと元気ないから。しかも元気ない理由、言わないし」
旭が唇を尖らせる。『もっと俺を頼ってくれてもいいのに』と付け足した声に、涼花はそっと感謝した。
旭はいつも龍悟の一挙手一投足を見逃さないよう完璧に秘書業務をこなしているが、それと同じぐらいに後輩の涼花のことも目にかけてくれていた。その事は前から知っていたしありがたいと思っていたが、ここまで直接的に指摘されたことはなかった。
「申し訳ありません。ご心配をおかけして」
「や、謝らなくていいよ。元気ない時なんて、誰にでもあるし」