社長、それは忘れて下さい!?

 だから涼花も疑問を持っていた。一番最初に龍悟と肌を重ねた時は涼花の事を好きではなかったはずだ。今これほどわかりやすく自分の気持ちを表に出す龍悟の様子は、あの時は微塵も感じなかった。

「たぶん、最初の『社長命令』の時は私のことを何とも思っていなかったからだと思います」
「へえ、涼花はそう思うんだ?」
「え……違うんですか?」

 最初は涼花に対して恋愛感情がなかったのは間違いない。だから随分前に発令した社長命令とここ最近のわかりやすい感情表現の間に齟齬が生じているのだろうと思う。

 だが旭には違った考えがあるらしく、意外そうに訊ねられた。旭は少し間を置いて、自分の言葉を吟味するように視線を上げた。

「あくまで俺の個人的な意見だけど、社長は涼花が秘書に配属された時から、涼花の事を好きだったと思うよ」
「……えぇ?」

 思いもよらない旭の台詞に、つい声がひっくり返ってしまう。旭は涼花の驚き方に苦笑しながら話を続けた。

「確かに最初は無意識だったんじゃないかな。本気でアプローチしはじめたのは最近かもしれないけど、社長は結構前から、涼花が自分のことを好きになるようにさり気なく仕向けてたと思うよ?」
「で、でも私、社長に『社内に恋人を作ってもいい』とまで言われてるんですよ?」
「社長も社内の人間じゃん」
「……」
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