社長、それは忘れて下さい!?

 旭の台詞に涼花は沈黙した。旭はあの場にいなかったので分からないかもしれないが、あの時の『社内に恋人を作ってもいい』の範囲には龍悟は含まれていなかった。そういうニュアンスだった。

 だがそれすら龍悟の無意識の発言なのだとしたら、涼花も何を信じていいのかわからなくなってしまう。

 眉間に皺が寄ったことは自分でも感じていたが、表情筋の動きは変えられなかった。涼花の様子を見た旭は、今度は突然不思議な呪文を唱え始めた。

「マジカルナンバートゥエルブ」
「……え? なんですか?」
「新人研修のときにやらなかった? ランダムの数字を覚えるやつ」
「あ……。えっと……やりました。覚えてます」

 心理学の用語で、正確にはマジカルナンバーセブン。多少の個人差はあるが『意味のないランダムの数字を覚える際、人間は七桁程度しか覚えられない』というものだ。

 新人研修の時は『みなさんの記憶はこの程度のものです。ですから大事な情報を預かった際は、自分の記憶を過信しないで必ずメモを取る様に徹底しましょう』と話を展開するために、グループワークで十桁の数字を覚えさせられたのだ。

 だが涼花は研修のために用意された十桁どころか、携帯電話の番号を超える十二桁まで覚えることが出来たのだ。

「涼花の記憶力の話、当時ちょっとした噂になってたんだよ。普通は七桁、どんなに多くても九桁までしか覚えられないランダムの数を十二桁まで覚えていられたすごい新入社員が現れたって」
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