社長、それは忘れて下さい!?
そういえば、そんなこともあった。旭に言われて、当時の新人研修の担当だった上司が面食らった顔や、周囲にいた同期たちに不思議な目で見られて恥ずかしい思いをした事を思い出す。まさかそれが重役の耳に入っているとまでは思わなかった。
「社長、嬉しそうに話してたからさ。実は総務まで、涼花がどんな子なのかなーって二人で見に行ってたりして?」
「……嘘」
初めて耳にする旭の告白に驚くと、旭がニコニコと笑顔を浮かべた。
「前任秘書の安西さんの代わりを全社員を対象に選出するって話になったとき、適任じゃないかっていう候補者は涼花も含めて四人いたんだよ。結果は見ての通りだね」
旭の口振りから察するに、四人の候補者から最終的に涼花を選んだのは龍悟本人という事だろう。もちろん上司と面談した内容や勤務態度も判断の材料にはなっていると思うが、いずれにせよ涼花が知らない話ばかりで驚きを隠せない。
「だからさ。社長は最初から、涼花に興味があったんだよ」
旭がにこりと笑顔を作る。思いがけず自分の異動の経緯を知った涼花だったが、それを知れば尚更申し訳ない気持ちばかりが胸の奥に渦を巻く。
龍悟は想像以上に涼花に興味と関心を寄せ、大事に扱ってくれている。だが涼花はその想いに応える事は出来ない。貰うばかりで返せるものなど何も持っていないのに。