社長、それは忘れて下さい!?
主語がないので一見何の話をしているのかわかりにくい。だが心当たりがある涼花にはその言葉が示す意味をすぐに理解した。
「サークルの先輩のときも、OBの先輩のときも、たぶん社長のときも。きっと涼花に受け入れる準備が出来てないうちに色々進んじゃって、脳が混乱したんじゃない?」
「……」
「だから無意識に、自己防衛のために相手の記憶に作用するフェロモンが出るようになったのかも。リセットしたい気持ちがすごく強く出た結果とか」
そうかもしれない。
いや、かもしれないではなく、そうだった。
涼花は、怖かった。初めてのとき、まだ怖くて受け入れられない気持ちを伝えて、先輩にシラけられてしまうのが怖かった。最初は痛いと聞いていたから、その痛みを知るのも怖かった。実際本当に痛かったし、二回目も三回目も慣れない痛みを身体に刻まれる事が怖かった。
OBの先輩のときも同じだ。話してみると性格的にはすぐに意気投合したが、付き合い始めてまだ日が浅いうちに身体の関係を求められた事に戸惑った。嫌われないよう応じたが、本当はもっと相手の事を知りたい気持ちが強かった。
龍悟の時は少し事情が違った。涼花は龍悟を心から好いていたし、彼の人柄も熟知していたので、龍悟を受け入れる事そのものを怖いとは思わなかった。