社長、それは忘れて下さい!?
ただ、自分の本当の気持ちを知られるのが怖かった。甘い関係に慣れてしまって、仕事でボロが出るのが怖かった。会社の人に知られて、不適切な関係だと詰られて、龍悟と引き離されるかもしれない事が怖かった。
「社長の事は、怖い?」
「……いいえ」
旭に尋ねられ、涼花はゆっくりと首を振った。その言葉に嘘はなく、龍悟自身を怖いと思った事はない。即答した涼花の顔を見た旭が、満足そうに笑う。
「でしょ。だからさ、折角両想いなんだし、少しずつ受け入れていけばいいんじゃない?」
旭の言葉に涼花は胸を締め付けられた。
龍悟はいつも涼花の事情を一番に気にかけてくれた。本当は自分の思い通りにしたいはずなのに、涼花の気持ちを優先して、龍悟の名前さえ素直に呼べない事も会社で知られたくない不安も酌んでくれた。
記憶がなくなってしまったのは涼花のせいなのに、涼花を責めなかった。それどころかこんな面倒くさい体質を知っても、まだ好きでいてくれる。
「けど涼花は辛いよね。忘れられちゃうんだから」
旭の言う通りだ。この体質を理解できても、龍悟の優しさを再認識しても、事実は何も変わらない。
解決方法など、わからない。
「記憶が無くなっちゃう事実は変えられないので……。でも好きな気持ちは、諦められるし、変えることができます」