社長、それは忘れて下さい!?

 だからやっぱり、もう龍悟の傍にはいられない。傍にいるなら徹底的に気持ちを押し殺すしかない。結ばれない想いに淡い期待を寄せて生き続けられるほど、涼花の心は頑丈ではないから。

 だが涼花の言葉を聞いた旭は、驚いたような呆れたような微妙な表情を浮かべた。

「えーと、逆じゃなくて?」
「……逆?」

 旭の言葉を反復すると、怪訝な表情をした旭が涼花の言葉をそっくりそのままひっくり返した。

「涼花が社長を好きなことも、社長が涼花を好きなことも、止められないし変わらないでしょ。でもさ、記憶がなくなっちゃうのは確かに困るけど、そっちはもしかしたら、この先どうにかなるかもしれないじゃん」
「……」

 旭の言葉に、涼花はまたも面食らってしまう。

 ――そうかもしれない。

 記憶がなくなる事実が変えられない、というのは涼花の憶測でしかない。少なくとも今までは同じ結果だったが、今後も絶対に相手の記憶がなくなるかどうかは誰にもわからない。もしかしたらこの先に違う結果が待っている可能性もゼロではない。

 好きな気持ちは諦められるし変えることができる、というのも涼花の願望でしかない。しかもそれは心の底からの願いではなく、そうなれば自分も相手も傷付かなくて済むという現実からの逃亡だ。

 だが旭の考えは違う。お互いを想い合う気持ちは確かな事実で変えられない。記憶がなくなってしまう事は困るが、今後その現象や体質が改善される可能性が絶対にないとは言い切れない。
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