社長、それは忘れて下さい!?
ビールを飲み干しながら旭が呟く。また突拍子もない事を言い出した旭だったが、これについては龍悟から似たような事を言われていたので、そこまで驚きはしなかった。
旭は龍悟の要望よりも軽い口調だったが、どちらにせよもっと感情を表現しろという事なのだろう。
「私の思う秘書って、あんまりへらへら笑ったりしないし、ビシッと格好よくスーツを着こなして、社長の傍で凛としてるイメージなんですが。私はまだ全然、上手に振舞えなくて……」
「えぇ? それでずっと気張ってるの?」
涼花が自分の考えを話すと、旭が心底呆れたように溜息を洩らした。涼花は恥ずかしくなって、つい俯いてしまう。
「他人の前で気を付ければいいだけじゃん。社長や俺には普通に接したらいいのに」
「そうかもしれませんけど、上手く使い分けられなくてボロが出ちゃう気がして。藤川さんは上手ですよね、使い分けるの」
「そんなの慣れだよ、慣れ」
執務室の中と外で態度が全然違う旭は、いつも物事を楽観視しているような気がする。そもそもの性格が違うので、旭のように振舞おうと思っても涼花にはかなりの難題なのだが、
「勿体ないよ。涼花、笑うと可愛いんだから」
と言われると、涼花も少しは頑張ってみようと思う。
少し時間が経ってから『可愛い』と言われた事を意識すると、急に嬉しいような恥ずかしいような気分になってしまう。火照った頬を誤魔化すために視線を逸らした涼花の様子をみて、旭が困ったように呟いた。
「うーん、照れても可愛いのか。確かにこれはずるいな」