社長、それは忘れて下さい!?
「あの、社長……」
涼花もスリープモードになっていたPCの電源を落とすと、龍悟の背中にそっと話しかけた。
すぐに『どうした?』と振り向く龍悟の姿に、また少しだけ見惚れる。やっぱりこの瞬間が一番好きだと気付くと、涼花の口からは思ったよりも簡単に言葉が出てきた。
「以前、お食事に誘って下さいましたよね……?」
「……そうだな。でも、気にしなくていいんだぞ。別に無理強いしたい訳じゃない」
「いえ、そうではなく……」
涼花の確認に、龍悟は罰が悪そうに視線を逸らしてしまった。
彼にまた悲しげな顔をさせていることに、申し訳なさを覚える。たが涼花は怯まなかった。拒否されて傷付いているのは涼花じゃない。曖昧な態度のせいで、龍悟は涼花の数倍傷付いているはずなのだ。
「あの、それって例えば今日とか……今週末とかだと、だめでしょうか?」
勇気を振り絞って訊ねると、龍悟が驚きで目を見開いた。あまりに驚いたせいかしばらく硬直して沈黙してしまう。
そのまま少しの時間が流れ、涼花が後悔を感じ始めた頃になって、龍悟はようやく我に返った。
「だめじゃない。いい……いいんだが……。どうしたんだ、急に」
「あ、あの……ご迷惑でしたらいいんです」
「ちがう。迷惑なわけないだろ」
ぎこちない言葉と明らかに戸惑っている様子を見て引っ込めようとした言葉は、簡単に掬い取られた。龍悟は口元を押さえて何かを考える仕草をしてみせたが、すぐに涼花の目を見て、
「なら今夜でいいか? 日を改めて気が変わったら困る」
と真剣な顔で呟いた。