社長、それは忘れて下さい!?
龍悟は自宅に用意しておいた食材の状況を思い出しながらそう結論付けたが、冷凍じゃない肉を下処理をした状態で二日も置いて、鮮度が落ちない訳がない。
「では今日は止めましょう。お食事はまた次の機会に」
「いや、いい。お前の気が変わって、もう行かないなんて言われたら困る」
そんな事は言いません。と言っても、龍悟は信じないだろう。
そう思われてもおかしくないぐらい、今までの龍悟に対する涼花の態度は冷たすぎた。
だが涼花が引っ込めない限り、龍悟は用意した食材を疎かにしてでも涼花と食事に行こうとするだろう。龍悟が食べ物を粗末にするのは見過ごせない。
「いいんですか? 飲食店経営社の社長が? そんなもったいないことして?」
少しだけ頬を膨らませながら、龍悟に詰め寄る。涼花に怒られた龍悟は言葉に詰まったが、かと言ってせっかく取り付けた食事の約束をキャンセルするという選択肢もないようだ。
龍悟はまた少し考え込む様子を見せたが、ふと涼花の耳元に顔を近付けて、驚きの提案を囁いた。
「……うちに来るか?」
すぐにぱっと離れた龍悟は、少し緊張したように涼花の目を見つめた。提案された選択肢はまたも涼花の予想から離れていて、つい動揺してしまう。
「……えっ、と」
龍悟の家には、一度行ったことがある。しかしそれは涼花の意思ではなく、龍悟が涼花を助けてくれたときの話だ。
今日は前回のそれとは違う。龍悟の家に行くかどうかの決定権は涼花にある。