社長、それは忘れて下さい!?
スープとソテーは冷凍庫の中で綺麗に圧縮保存されていたが、恐らくこれも龍悟が作ったものなのだろう。素直に感想を述べると、安堵の表情を浮かべてくれた。
「社長はご自身でもお料理されるんですね」
「まぁ、そうだな。大抵のものは作れると思うが……」
龍悟は基本的に食べる事が好きだ。もちろん涼花も好きだが、龍悟は仕事だけではなく趣味でさえも食べる事だと聞いたことがある。
出来るだけ他の社員と同じ勤務時間内に仕事をこなすようにして、業務後の時間はどこかのお店にご飯を食べに行っている。以前、この業界に身を置く上ではそれも大事な仕事だと話していたが、まさか自分で料理をしてもこんなに本格的で美味しいものが作れるなんて想像していなかった。
「豚骨ラーメンだけは、ここでは調理しないようにしてるが」
「匂いがしますもんね……。って、え? じゃあ豚骨以外のラーメンは作るんですか?」
「たまにな。秋野はラーメンは何が好きなんだ?」
「私は……そうですね~、醤油ラーメンが一番好きです」
「そうか。じゃあ今度作ってやる」
ラーメンの話になったので涼花が自分の好みを話すと、龍悟がごく当然のようにそう言った。
「えっ……と?」
龍悟の何気ない一言に咄嗟に頷くことが出来ず固まってしまう。ローストビーフと違ってラーメンは作り置きが出来ないし、作ったものを会社に持って行く事も出来ない。つまり龍悟の言葉は『またこの家に来る』事を意味する。
「……悪い。今のは俺の願望だ。秋野は気にしなくていい」