社長、それは忘れて下さい!?

 龍悟もすぐに気が付き、自分の言葉を訂正した。それから少し困ったように目を細めて、自分の軽率さを悔やむように息をつく。

「舞い上がりすぎたな」
「……社長?」
「最近、ずっと俺の事を避けてただろう。避ける、とは違うが……俺に気を遣って、必要以上に近寄らないよう警戒されて、困らせてるのはわかってた」

 核心をつくような言葉を並べられると、胸に針がつかえるように錯覚する。

 龍悟が感じていた涼花の言動は、指摘の通りなので否定はできない。何も言えなくなった涼花の瞳を見つめて、龍悟は寂しそうな笑みを零した。

「俺の家で、俺の作った飯を食って、目の前で笑ってくれる事が嬉しくて……つい欲が出た」

 その言葉は涼花の心の奥に切なく響いた。改めて龍悟の想いを知ることが出来て嬉しいと思う反面、どんどん自分が情けなくなってくる。

 無言のまま最後に残したローストビーフを口に運ぶと、あんなに美味しかったはずの肉の味が、何故かまったくわからなくなっていた。

 理由は知っている。涼花がまた、逃げようとしたからだ。懸命に想いを伝えてくれる、目の前の想い人の熱い気持ちと優しさから。

「私……社長に伝えないといけないことがあるんです」

 カタン、と小さな音が響き、涼花の手からフォークが離れた。顔を上げると龍悟は涼花の決意に気圧されたように首を引いたが、すぐにいつものように涼花の話を来てくれる姿勢を示した。

「何だ?」
「社長に、嘘を教えてたんです」
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