社長、それは忘れて下さい!?
涼花も知らなかったのだから、嘘というのは違うかもしれない。だが誤情報を伝えていた、という意味では同じだ。
不思議そうに首を傾げた龍悟に、以前話した涼花の体質をもう一度告げる。
「私の事を抱いた人は、私と過ごした時のことを忘れてしまうという話……本当は違っていて」
「……」
「抱いたら、ではなく……キスを、すると……忘れてしまうみたいなんです」
涼花の告白を聞いた龍悟は、ぽかん、と間の抜けた表情のまま固まってしまった。その顔を見て、また自分が場違いな告白をしてしまったと感じる。
「申し訳ありません。訂正しても相変わらずファンタジーで……」
「いや、そんな風には思ってない」
いつかの龍悟の言葉を借りて謝罪したが、龍悟は苦笑しながらその言葉を否定した。
けれど今の言葉で、勘のいい彼なら気付いただろう。最初に涼花を抱いた時と薬を盛られた時に、その記憶を失わなかった理由。パーティの後にホテルで過ごした一夜の事を忘れている理由。
すべて原因は同じ。涼花とキスをしたか、しなかったかの差に他ならない。
「それでも、私は……」
小さな声が空になった皿の上に落ちて吸い込まれていく。
これ以上近付くと自分も辛い思いをするし、龍悟のことも傷付けてしまう。同じ傷なら深入りせずに諦めた方が、痛みは軽く痕も少なく済む。
勝手にそう決めつけて、龍悟の気持ちを蔑ろにして、気恥ずかしさも相まって、涼花は逃げていた。冷たい態度を取ってしまった。